2021/4/3

分人という考え方

新学期を迎えましたので、新しい試みとして、読書ブログを書いてみたいと思います。

最初に取り上げるのは、最近読んだ『私とは何か—「個人」から「分人」へ』という本です。
2012年に出版されて、10万部以上も売れた本なので、すでに読んだ方もいるかと思いますが、私は遅ればせながら今年になって読みました。Youtubeで見たTEDでの著者の平野啓一郎のプレゼンが素晴らしく、関心をもったのがきっかけでした。
読んでみてやはり面白かったのですが、一言でテーマを言うと「個人というと分けられないイメージがあるけれど、実際は色々な人格を演じている」です。

特に私が大事だと思った箇所を4つに絞りました。

①「本当の自分」という神話
大学の文理選択の場面や、就職活動の場面などで「本当の自分は何?」と問われる場面に遭遇し、そこで苦しむ人は多くいます。ですが、著者は言います。たった一つの「本当の自分」など存在しない。対人関係ごとに見せる複数の顔が全て本当の自分だと。

また、その人らしさとは、複数の分人の構成比率に過ぎないと。

この①に要点はほぼ全て詰まっていると言っても過言ではないほど、ここがこの本の主題です。

②悩みの半分は他者のせい
ネガティブな分人→半分は相手のせい
ポジティブな分人→他者のおかげ

このように思うことで人間関係の悩みは減るんじゃないかという提案をしています。

③大切なのは分人のバランス
不幸な分人の存在感が増してくると、消えてしまいたくなるけれど、実は消してしまいたいのは、複数ある分人の中の一つに過ぎません。ですので、その相手との関係を断てば、その分人が更新されることはなくなります。結局のところ、自分の分人全体のバランスが大切ということです。

ちなみに、当塾のような個別指導では、基本的には1科目につき一人の担当講師がつきます。それは、大学受験科目は専門性が高いので、物理的に複数科目を指導できる講師が少ないという面もありますが、様々なキャラクターの講師とコミュニケーションを取ることによって、複数の分人を生み出しながら入試までの道のりを乗り切る、と解釈することもできそうです。

稀に、一人の先生と相性がとてもよく、その先生に全科目を教わる生徒さんがいますが、こういったケースでは、その講師との分人が他の担当講師との分人と比べて、特にモチベーションが上がるということだと思います。

④自分を好きになる方法
好きな分人が一つでも二つでもあれば、そこを足場に生きていけばよい、と著者は言います。生きた人間でなくても、詩でも小説でもよいのです。

個人的には、特に後半は非常に心強い言葉だと思いました。友人がおらず孤独感を感じている人にとっても、勇気を与えてくれる考え方ですね。

この考えを発展させると、学ぶという行為も、そこにワクワクが伴えば、新たな分人を作ることになるのではないでしょうか?つまり、好きな学問に夢中になる自分は新たな分人となってあなたを支えてくれるはずです。もちろん、そこにはワクワク感が必要なことは言うまでもありません。

 

<この記事に登場する書籍>
平野啓一郎『私とは何か—「個人」から「分人」へ

究進塾代表 : 並木陽児

大学受験の化学を教えています。趣味は読書と野球観戦(ベイスターズファン)、カレー食べ歩き、子供の遊び場開拓。1児の父として子育てしていることから、最近は幼児教育にも関心を持っています。

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