2021/6/10

板書をメモすることがカギだった!(「AIに負けない子どもを作る」を読んで)

「AIvs教科書の読めない子供たち」が大きな反響を呼んだ新井紀子さんの続編「AIに負けない子どもを作る」を読みました。

きっかけとしては、筆者の新井紀子さんの「ロボットは東大に入れるか?」(通称、東ロボくん)という人工知能のプロジェクトが様々なメディアで話題となり、ネットのインタビュー記事などで目にすることが度々あって関心を持っていたからでした。

東ロボくんは2016年には、MARCHの複数学部で合格可能性80%以上を出し、話題になったのでご存知の方もいるかと思います。

「AIの台頭によって今ある職業でAIに取って代わられてしまうものが出て来る」という週刊誌やネットの記事に触れるにつけ「それでは、AIにとって代わられないためにはどうすればよいのだろう?」とふと思うことがありました。そして、教育者として一番の関心は「AIにとって代わられないための教育とは何なのか?」でした。

さて、東ロボくんのプロジェクトの過程で、新井さんはリーディングスキルテスト(以下、RST)を開発しました。

RSTは「人間の読解力を診断しうるような高品質のベンチマーク」というべきテストで、「答えが書いてあるのに解くのが難しい不思議なテスト」です。元々はAIの能力を試すために開発されたのですが、出来上がってみると、多くの中高生にとって、それどころか、大人にも難しかったのです。

ちなみに、この本には例題が28題載っておりまして、実際に私もチャレンジしてみましたが、恥ずかしながら4問ほど間違えてしまいました・・・

例えば、次のような問題です。
———————————————
Q.
原子に含まれる電子の数と陽子の数は等しいので原子は全体として電気的に中性である。

この文章が表す内容と以下の文が表す内容は同じかどうか。

原子は全体として電気的に中性なので、原子に含まれる電子の数と陽子の数は等しくなる。

①同じである
②異なる
———————————————
正解は②なのですが、私は①と答えてしまいました・・・

普段いかに論理的な構造を曖昧なままに「キーワードを拾い読み」(=AI読み)しているかを痛感させられました。

この結果の不出来にショックを受けながらも読み進めて行くと、さらにショックな事実が・・・。新井さんは、RSTの問題の正答率が、高校の偏差値と相関していることを突き止めました。そして、圧倒的多数の生徒が「自分は教科書を読めている」と思っているが、実は読めていないことがRSTの結果から明らかになりました。

それでは、最も知りたいのは「では、どうすればよいのか?」についてです。

「RSTの問題を沢山解く?」

それは全く意味のないことだと新井さんは言います。
「正しく読む」ための特効薬はないそうです。地道に正しく読む力をつけて行くしかないのでしょう。

ただ、一つヒントになる考察がありました。それは穴埋めプリントの多用やアクティブラーニングによって、むしろ読解力が落ちているのではないか?というものでした。小学校で穴埋めプリントを多用していた自治体では、中学生になってから受けたRSTの結果が低いというデータから、新井さんはそれに気がつきました。
そして、昔ながらの「黒板をメモする」「新聞の要旨をまとめる」といった行為が読解力を身に着けるのではないか、というのが新井さんの考えでした。

この本の末尾で新井さんは、リーディングスキルを向上させるための方法を提言しています。この中でも私が特に印象に残った箇所を抜粋します。

【幼児期】
・信頼できる大人に、自分は守られているという実感を持てること。
・身近な大人が絵本を開いて繰り返し読み聞かせをしてあげてほしい。
・社会に関心を持つようになったら、ごっこ遊びができる環境をつくったり、広告や駅名を読んだり、(電子マネーでなく)貨幣で何かを買ったり、簡単な調理を一緒にする機会を増やす。
・日々の生活の中で、子どもが身近な小さな自然に接する時間を取る。

【小学校高学年】
・新聞を読むことを奨励する。いくつか新聞記事を用意し、興味のあるニュースを選ばせて読ませる。順番を決めてニュースを読み上げさせる。ニュースの要約を200字程度、感想を200字程度で書かせる。

代表的な項目を挙げましたが、これ以外にも参考になる提言がありました。

そして、最後は熱いメッセージが語られます。

教科書と最低限の副教材をきちんと読んで理解することができ、学習したコンテンツの全体像とディティールを破綻なく自分なりにはっきりとイメージすることができ、母語である国語の成り立ちを客観的に眺めることを通じて英語の文法の成り立ちを理解することができ、数学の定義を理解し、練習問題を易しいものから徐々に難しい問題へと根気よく解くことができ、自己採点の精度が高ければ、それだけで旧帝大クラスの大学には入学できるはずなのです。

給付型奨学金制度が確立し、子どもが安心して生活できる環境が保証され「自学自習することができる基礎的・汎用的読解力」さえ中学卒業まで身につければ、あとはまさに生徒一人ひとりの自由意志で進路を決めることができます。それこそが達成されるべきフェアで民主的な教育です。

「教科書と最低限の副教材をきちんと読んで理解することができ」だけだと一見易しそうですが、この本を読むと、それが意外と容易ではなく、最大のカギを握るということを痛感します。これは様々な生徒さんを指導している中でも直面している問題です。

私も教育者のはしくれとして、教育の進むべき道を示してくれた刺激的な名著でした。

教育関係者はもちろんのこと、子育てしている保護者にもぜひ読んでいただきたい本です。

 

<この記事に登場する書籍>
新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち
新井紀子『AIに負けない子どもを育てる

究進塾代表 : 並木陽児

大学受験の化学を教えています。趣味は読書と野球観戦(ベイスターズファン)、カレー食べ歩き、子供の遊び場開拓。1児の父として子育てしていることから、最近は幼児教育にも関心を持っています。

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