2019/11/6

大学入試改革はどうあるべきか

11月1日に新大学入試改革の民間英語試験の延期が決定致しました。

これについては、住んでいる地域や家庭の経済状況による機会の格差が生じてしまうということは避けられないので、延期は妥当だと思いますし、むしろ中止でもよいと思います。(当塾ではスピーキング&ライティングコースに向けて、準備をしてきましたが、不平等が生じる可能性のあった受験生のことを考えると、延期となりホッとしました)

日本人の「ライティング、スピーキングの能力を向上させるべき」という点に異論はありませんが、それを全受験生に対して国が一律で測る必要性があるのかは疑問です。

各大学の判断で、ライティングの問題の配分を増やす、スピーキングの試験を導入するなどすればよいことで、全受験生に対して一くくりにやろうとするから、受験機会や採点の公平性などが生じてしまうのではないかと思います。

必要性が大きい大学は、各々が導入すればよいことで、一人一人の基礎学力を測るのであれば、これまでのセンター試験で十分でしょう。(センター試験自体もあくまで全体の中での位置の目安としてしか使えないので、必要性があるかどうかは議論の余地がありますが・・・)

さて、先日、脳科学者の茂木健一郎さんが、ブログでさらに踏み込んでより大胆かつ過激な提案をしていました。

https://lineblog.me/mogikenichiro/archives/8428767.html
大まかにまとめますと「偏差値自体が全ての元凶である」ということです。

茂木さんのブログや発言はとても先見的で勉強になることが多く、人が自由に生きられ、個性が活かされる社会を目指している点で、共感する点が多いのですが、学習塾の運営者としては耳の痛い意見も多く、このブログについてはさすがに職業柄、全面的に賛成とは言えませんでした。

私からの反論意見としては(ビリギャルの話ではないですが・・)それまで何をやってもダメで、やる気をなくしていた人が、一念発起して、偏差値を上げる目的によって努力して得られる成功体験にも(その人の人生を考えると)価値があると思っています。また、少なくとも20世紀までは、偏差値競争を含めた学歴主義によって日本人の平均的な学力が高く保てていたことで、日本の科学技術力は世界的に見て高いレベルを誇っていました(これは過去形となりつつありますが・・・)。

ただ、茂木さんのブログの内容は非常に説得力があり、考えさせられる部分が大いにありました。

20世紀でしたら、日本でも偏差値教育のいわゆる「勝ち組」であるエリート達が大企業に入り、高性能な製品を作り、世界で売って、日本をリードしていくという形にも一定の説得力があったでしょう。いわゆる「工場型モデル」が成立していた時代です。

ですが、今世紀になって、グローバルな規模でスティーブ・ジョブズの出現・活躍に代表されるような、「工場型モデル」から「発明家モデル」への大転換が起きていますし、会社も終身雇用が崩れ、人材も流動化せざるを得なくなっているので、もはや高学歴→日本の大企業への就職が成功・安定の道とは必ずしも言えなくなってきています。

そんな中で、偏差値によって階層化され、人生や人格が固定化されてしまうのは社会にとって損失が大きい、というのは納得せざるを得ません。

私の考えとしては、偏差値の比重、重要性は徐々に減って行くことがよいと考えています。
(もちろん職業柄、受験生の相談に乗って「君の偏差値ならこの大学に入れそうだよ」と言うことはあるのですが「高偏差値=幸せへの道」などといった単純な図式が通用しないことは痛感しています)
そのための案として、いくつかの提案をしたいと思います。

①「飛び級」制度の普及
偏差値は同学年の中で横並びで競争し、その中でどれだけ平均点よりも高い得点を取ったか、というものを測る指標です。ですので、飛び級が柔軟に選択できるようになれば、偏差値の重要性が下がるのではないでしょうか。現在でも、千葉大学(文学部、理学部、工学部)をはじめとして、数校のみで行われていますが、もっと全国の大学に大々的に「飛び級」制度が普及して行くことが望ましいと考えます。

②大学入試の多様化
ここ最近、AO入試が増えてきていますので、多様化の方向は年々強まっているように感じています。東大でも2016年度から推薦入試が始まっています(これについても、センター試験は必要ないと私は思いますが・・)。「1科目でも得意な科目があれば入学できる」「ペーパーテストに限らず、これまでの研究内容が評価されれば入学できる」という大学がどんどん増えてきて、入学が多様化していくことが望ましいと思います。

③大学卒業資格の難化
大学の卒業資格を難化することで、大学入学自体にはそれほどの価値がなく、卒業することが重要という流れができると思います。また、インターンや就職活動に熱を入れ過ぎて勉強がおろそかになると卒業できないというリスクも生じるので、結果として大学の勉強を頑張らざるを得ないという形ができるはずです。

④就職採用の多様化
新卒一括採用がよろしくないと思います。年中採用にして、新卒と中途採用の区別を設けず、修士号、博士号所持者は今以上に優遇する、という形にするべきでしょう(現状、博士過程に進むことのメリットに比べてデメリットが余りに多いのは改善するべきと思います)

以上の4点です。と言っても、これらはヨーロッパでもアメリカでも行われていることなので、これこそ、政治家および官僚の方々がその気になれば実現できないことではないはずです。

現状の「大学入試制度改革」は本当に小手先の些末な変化だけで、受験生を混乱させるばかりですが、むしろ、上記のような変革こそが本質的な教育改革ではないでしょうか。

究進塾代表 : 並木陽児

大学受験の化学を教えています。趣味は読書と野球観戦(ベイスターズファン)、カレー食べ歩き、子供の遊び場開拓。1児の父として子育てしていることから、最近は幼児教育にも関心を持っています。

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