2023/11/24

【なるほど経済学!】ミクロ経済学 第1回「選好と効用関数」

こんにちは。究進塾 編集部です。今回は、塚田先生の「ミクロ経済学」の講義をご紹介します。

経済学を学んでいる人は勿論、経済学に触れたことがないという方も、経済学の世界に一歩踏み出してみましょう。

📝この記事のポイント
・ミクロ経済学とは何か?
・マクロ経済学との違いは?
・最初に登場する「効用関数」とは何か?

はじめに
こちらの記事は、YouTubeチャンネル「【究進塾】塚田先生のなるほど経済学」『ミクロ経済学講義-第1回「選好と効用関数」』を参考に、経済学についてご紹介しています。音声を聞ける環境の方は、ぜひ動画をご覧頂き、塚田先生の講義の雰囲気を掴んでいただければと思います。

動画紹介
ミクロ経済学講義-第1回「選好と効用関数」(所要時間:24分54秒)

講師:塚田憲史
筑波大学第三学群社会工学類卒業、東京大学経済学研究科博士課程単位取得退学。東京大学経済学部における学部向けのミクロ経済学のTA、学部及び大学院向けの経済数学のTA、成城大学で非常勤講師を経験。当塾では慶応大学、早稲田大学の学生を中心に経済学の補習で活躍中。経済学系の大学院入試対策も指導可能。親しみやすく、生徒と二人三脚で目標に向けて進めて行く指導が特徴です。大学補習コースの詳細はこちら。

 

ミクロ経済学とは何か

まず、ミクロ経済学とはそもそも何か、ということについてです。

経済学という学問には、大きく分けて「マクロ経済学」と「ミクロ経済学」の2つの分野が存在します。

マクロ経済学 ミクロ経済学
集計されたマクロ経済変数同士の関係性を明らかにする学問 ボトムアップで個々の消費者・生産者がどのように行動するのかを、彼らの意思決定行動から考えて、彼らの意思決定が集積した時に全体として何が起こるのかを考える学問

マクロ経済学は、有象無象がうごめいてる現代社会を、すでに出来上がっているピラミッド、積み木のようなイメージで、シルエットだけで捉えるような考え方です。

対してミクロ経済学は、個々人の行動を積み上げていき、経済全体を形作っていくイメージです。「方法論的個人主義」のような、学問上の方法論で経済を分析する考え方です。

例えてみると、生物学には以下の2種類があるとします。

①薬や漢方薬を飲んだ時に、人間の体に何が起こるかなどを総合的に考える生物学

②薬と細胞に含有される特定の分子同士が結合した結果、体にどういうことが起こるかを考える生物学

後者のようにミクロに細かく、下から順番に積み上げてく考え方を「要素還元主義」と呼びます。その「要素還元主義」の社会科学バージョンが「方法論的個人主義」という学問の方法論です。ミクロ経済学はこの方法論に従ってるということです。

ミクロ経済学における「合理的」とは

ミクロ経済学を始める時、最初に「家計や企業の合理的な行動」という言葉が登場します。この「合理的」とは何かを、まず理解する必要があります。

「合理的」というのは、選好関係の理論に関係しています。

我々には、生きていく中で様々な選択肢があります。例えばa・b・c・d・eというような、色々な選択肢に突き動かされます。

このように、色々な選択肢の中で「何を選ぼうか」というのを日々考えながら生活しているわけです。

その中で「何か行動をしている」という事は、その選択肢の中の一つを選んでるという事です。

そして「何で選択肢の中からその一つを選ぶのか」と言うと、色々な選択肢を比較検討した結果、その選択肢が一番いいから選んでいるわけです。

もちろん「何かの衝動に従って買ってしまう」という場合もあります。この「衝動に従って買い物をする」というのも、ある意味でその場の快楽や高揚を高めるために「選択」を行っているといえます。

こうした選好を定めたものを「選好関係」と言います。

選好関係

例えば

・aとbを比べた時にbよりaの方がいい
・bとcを比べた時にbの方がいい
・dとcは同じ程度
・dとeを比べたときにdの方がいい

となるとします。これを式に表すと次のようになります。

a≻b≻c~d≻e

a≻b:aはbより好ましい
a~b:aはbと同等

この「≻」という記号は選好関係を表す記号で、a≻bであれば「aはbより好ましい」ということを表しています。そして「~b」の形は「aとbが同等」であるというのを表します。

このように、選択肢間の好みの大小関係を「選好関係」と言います。

そしてこの選択肢間の好みの大小関係というのは、決めようと思えばすごく適当に決めることができるわけです。

・aとbの関係は右向きか
・aとbの関係は左向きか
・aとcの関係は右向きか
・aとcの関係は左向きか

このように考えていくと、例えば全ての組み合わせに対して、右なのか左なのか、つまり0なのか1なのか、というパターンを決めればいいことになります。

例えば6個の選択肢があったら、「6C²」のように選択肢間の選好関係のあり方というのは、すごく色々なパターンがあります。

しかし色々なパターン、色々な選好関係を考えていると、中には訳のわからないナンセンスなものも含まれてしまいます。

そのため経済学では、この選好関係が「最低限満たしておいてほしい性質」というものを考えます。

それが「完備性」と「推移性」というものです。

①完備性

全ての2つの選択肢に対して、どちらが好ましいかを選べる、というのが完備性です。

選択肢の集合をXとした時、完備性というのは、任意の\(y\)と\(x\)をこの選択肢の集合から取ってきた時に、任意の2つの選択肢に対して「\(x\)が\(y\)より同等か、好ましいか」「\(y\)は\(x\)より同等か、好ましいか」というのを選べる、というのが完備性です。

式で表すと、

\(Vx\), \(yEX\), \(x\) ≻ \(y\) or \(y≿x\) ⇒ 合理的な選好関係

このようになります。

②推移性

一方「推移性」というのは、選択肢の集合をXとした時、\(x\)と\(y\)と\(z\)という選択肢を選んできて、\(x\)が\(y\)よりも好ましく、かつ\(y\)が\(z\)よりも好ましいとしたら、必ず\(x\)は\(z\)よりも好ましくないといけない、というのが「推移性」と呼ばれるものです。

式に起こすと以下になります。

∀\(x,y,zEX\), \(x≿y\),  かつ \(y≿x\) ⇒ \(x≿z\)

③条件を満たさないとどうなるか

もし、この2つの条件を満たしていないとどうなるかというと、選択肢の中から一つを選ぶことが出来なくなってしまいます。

\(x≿y\)
\(y≿z\)
\(z≿x\)

このように、\(x\)が\(y\)よりも強くて\(y\)が\(z\)よりも強いのに、\(z\)が\(x\)にも強いとなります。要するにじゃんけんのようなループ、三すくみが存在してしまいます。

こうなると「この選択肢の中から何か一つを選ぶべき」というルールなのに、一つを選ぶことができなくなってしまいます。

その3つの選択肢はそれぞれ良い点と悪い点があるから、イクイバレント(2つの物が同等)、つまり同じだと考えることができます。

ある時にはaを選んだのに、ある同じような状況ではzを選ぶような、そういう矛盾した選択行動をしてしまうということになります。

ですから、そういう「じゃんけんのような三すくみというのはないですよ」というのを、選好関係に仮定する必要があるわけです。

この「完備性」と「推移性」を満たしていると、この選好関係は合理的だということになります。

合理的な選好関係の条件

経済学では消費者に対して、この合理的な選好関係を最低限満たしておいてほしい、と考えます。

でも、この合理性というものをよく考えてみると、すごく緩いものなんです。

目の前に選択肢が2つあって、その選択肢のうちどちらがいいか、きちんと選べるという「完備性」。

そして3つの選択肢があった時に「赤が黒より良くて、黒が白よりいいのであれば、赤は白より絶対いいはずだ」という、矛盾しない選択肢の間の好みを持っているという「推移性」。

その2つさえ満たしていれば、「それは合理的な選好関係だ」という風に呼ばれます。

マニアックな数学的な話で、ずっとこの合理的な完備性と推移性を満たすと「弱順序」という、aからzまでの選択肢を、上から順番にグループごとに大小関係を付けることができる、ということになります。

そして大小関係をつけると、一番いいグループというものがあって、その一番いいグループを選べるようになりますよ、ということになるわけです。

だから経済学ではこの「合理的な選好関係」を、消費者・生産者に仮定しているのですが、その合理性というのは、単にこの「選べますよ」「2つを選択肢のうちどちらかを選べますよ」そして「矛盾しませんよ」というだけなんです。

ミクロ経済学が良く批判されるように「本当に合理的な個人なんか存在しない」と言われますが、実際に経済学が仮定している合理性というのは非常に弱いものです。

例えば「タバコを吸ってしまう」というのは、日常言語の上では、実は不合理だと考えらえることが多いです。しかし経済学の上では、その「タバコを吸う」ということが「一番いい選好を持っている」のだとしたら、その選好は認められるわけです。「その選好は合理的だ」というように言われることになります。

以上から、経済学が仮定している合理性は、思ったほど強くないと言えます。

完備性、推移性は完璧な理論か

では、完備性、推移性を全ての人が完全に満たしていると言えるかというと、そうも言えないのも確かなんです。

例えばa・b・c・d・eという選択肢があり、その中でaを選ぶのが一番いいことが明らかだったとしても、a・b・c・d・eの他に、fという選択肢があるかもしれない、という事例があるとします。

すると「fという選択肢が、aよりもいいものになる可能性もある」「他の選択肢gを発見するために、コストがかかるからなかなか発見できない」などということになってきます。

こうなると必ずしもこの完備性、推移性を満たしていると言い切ってしまうのもまたおかしい、ということになります。

こうしたことから、現代経済学は「人々が持っている選好というのは、どういう風に決まってくるのだろう」とか「こういう選好関係を持っているのが、よりリアルな人間だ」ということを明らかにするために、実験経済学や行動経済学などの分野が盛り上がっているわけです。

経済学の合理性・経済学が仮定する合理性は思ったほど強くない
・現実のすべての人間が、このような合理性を持っているかと言われると、結構微妙なところがある

実験経済学、行動経済学などの分野が、経済学のフロントラインになっている

とはいえ、ミクロ経済学的な合理性を仮定した上で進めていく、経済学の理論・議論も非常に豊かなものがあります。

ですから、ここからはひとまず、この合理性を仮定した上でミクロ経済学の話を進めていきます。

効用関数とは何か

ミクロ経済学を学ぶとき、最初に「効用関数」という概念が登場します。

「効用関数」は、ミクロ経済学ではよく使う概念です。この概念が結局何なのかということを、選好関係の理論から説明します。

この合理性を満たすと何が嬉しいのかというと、合理性に加えていくつかの色々な条件を満たすとき「この選好関係を効用関数で表現できる」という定理があるからなんです。

そして選好関係を効用関数で表現可能だったら、必ずその人は合理的な選好関係を持っています。だからこの図の「⇐」は絶対に成り立ちます。

しかし「⇒」が成り立つかどうかは少し疑問です。なぜかというと、合理的な選好関係だけだと、例えば辞書的順序のように、効用関数がないような例も存在してしまいます。

ですからプラスアルファの要素が重要です。

これは現実の話というよりも、かなり理論的な話です。辞書的な選好を持っている人というのも、本当に現実に存在するかどうかと言うと微妙です。ミクロ経済学に対しマニアックな人は好きな、単なる議論です。

しかし、とにかく合理的な選好関係、プラスで連続性や色々な過程を置いてやると、選好関係を効用関数で表現することが可能になる、ということです。これが重要なのです。

効用関数で表現する

「効用関数で表現可能って何?」ということなんですが、効用関数で表現可能というのは、この選択肢a・b・c・d・eに数字を割り当てよう、ということです。

例えばイラストのように、u(a)は10、u(b)は8、u(c)は5、u(d)も5(イクイバレントなので注意)、u(e)は1。

このように、各選択肢に数字を割り振って「その数字の大小関係が、選好関係と一致している」というのが、選好関係を表現する「効用関数」といいます。

効用関数という言葉は、初等の経済学、または経済学を教えるのが面倒くさい時には「人々の嬉しさ」「選択肢から受け取る嬉しさをポイント化したもの」のように説明されます。

しかし実は、それはすごく昔の経済学の話です。

昔の経済学は、人々の嬉しさを数値化できるという風に考えていました。

その数値化した嬉しさを合計し、最大化するのが一番良い政策なんだということを、昔の経済学は素朴に思ったわけです。

なぜこうした考え方が生まれたのかというと、この経済学の背景には、全ての社会現象や自然現象を数字で分析できるという、産業革命や科学革命の流れがありました。

そこから功利主義が生まれ、そこで生まれた概念が、素朴な効用関数の考え方・基数的効用という考え方なんです。

※功利主義:人々の生活を快楽と不快楽で測り、その快楽の合計を一番高くする社会制度が良いのではないかという主張。

まとめ・功利主義に影響を受けた素朴な経済学では、基数的効用を使う
・基数的効用は、人々の嬉しさ、快楽をポイント化したもの

功利主義の利点と批判

この功利主義というのは、色々な批判を受けることになります。

ただし、全く悪いものではなくて、今でも様々な功利主義のバリエーションがあります。そして功利主義があることによって、色々な社会改革が進んできた面もあります。

例えばミル(John Stuart Mill、1806.5.20.~1873.5.8.)は、人々を一人一人平等に処遇し、それぞれの人たちの効用をしっかり判断して、社会政策をするべきだと述べています。

だからこそ彼は、「女性と男性が違う扱いを受けているのはおかしいだろう。なぜ男性だけが選挙権を持つことができて、女性は選挙権を持っていないのか」と主張し、女性参政権を認める修正案を提出しています。

当時、イギリスの女性は財産権すら持っておらず、財産権も選挙権も”男のもの”だったわけです。

そういうものを解決するために功利主義の考え方が使われた、という背景があることからも、功利主義は非常にラディカル(=革新的)で素晴らしいものであり、社会にとっていいものであります。

功利主義への批判、経済学との離別

しかし一方で、功利主義に対しては、やはり批判もあります。

功利主義というのは、人々の快楽をポイント化し、それを最大限に高めることができたら「それがいい社会だろう」という風に言うわけです。だから多くの人の快楽を、1ポイントずつ上げていくことになります。

そうして1億人の快楽を1ポイントずつ上げていくと、総計10.000ポイントになります。しかしその分、1人の人間の快楽ポイントに対して、-9,999ポイントまで許されてしまうわけです。

そうすると例えば、1人の人間を徹底的にいじめて、そのいじめの画像をみんなで喜んで見るとみんなの快楽が上がる、ということが起こり得ます。

そのような、1人をいじめてみんなが儲かるような政策というのはありなんだ、という理屈を成り立たせてしまうのが、功利主義なわけです。

もちろん現代流の功利主義は、そういう批判を受け流すために色々な改良がされていますが、素朴な功利主義はこのような理論が成り立ちます。いつまでたっても、功利主義というのは、この問題は解決できないわけです。

「一部の人間のダメージと、一部の人間の快楽を本当に通算していいのか」というのが、功利主義に対するクリティカルな批判となっています。

こうしたことから、経済学は「これ以上ずっと功利主義と一緒にいるわけにはいかない」ということになったわけです。

序数的効用の登場

数学的な技術が発展するに従って、必ずしもこの基数的効用という功利主義的な考え方だけによらなくても、経済学は構築できるのではないか、という風になってきます。

そこで出てきたのが「序数的効用」です。

序数的効用というのは何かというと、合理的な選好関係を数字で表現するためのものです。

ですから実は、この現代経済学が使う序数的な効用にとって、数字の大小には意味があるけれど、数字の大きさそのものには、実は意味がないんです。

例えばこの例を使うと、aという選択肢の効用は10、bの効用は8、cの効用は5、dという選択肢の効用は5、eという選択肢の効用は1と書きましたが、これには色々な変換の仕方があります。

例えばログを取って変換してもいいし、指数にして変換してもいいのですが、例えば2乗にしてみましょう。

2乗するとaの選択肢が100、bの選択肢が64、cの選択肢が25、dの選択肢が25、eの選択肢が1となります。

このように、数字を割り当ててもいい、ということです。同じ選好を表現してるということになります。

この辺りが、経済学の初心者から中級者になる時に、かなりつまずきやすいところであり、面白いところと言えます。

まとめ効用関数は人々の嬉しさポイントだという風に教えられる
※実はそれは少し子供騙しの説明

・実際、今の経済学が考えている効用関数は、うれしさポイントではなく、人々の選好関係を表現するためのもの
・そこでは数字の大小関係には意味があるが、大きさにはあまり意味がない

次回以降はこの効用関数を使い、どのように人々が財を消費するのか、またこの助数的効用の範囲内で、基数的効用みたいなことをするなどをやっていきたいと思います。

少しマニアックというか、難しいかもしれないですが、この基数的効用が序数的効用に移り変わるときに、ある種、経済学は防御力を高めた代わりに攻撃力を捨てたんです。このディフェンスをする盾を手に入れたのですが、社会に対して言える攻撃力、剣がこの変化によって失われたんです。

それを打開するために、この序数的効用の理論体系の中で、また基数的効用的な社会について何かを言うための言葉を手に入れる作業が出てきます。

そこで出てくるのが例えば「便益」という考え方や「消費者余剰」という考え方などです。そういうものについても徐々に勉強していきましょう。

☆YouTubeの動画授業では、第2回「消費者問題」以降も公開中です。ぜひご覧ください。

おわりに

究進塾では、無料体験授業を行っています。受講にご興味のある方、ご質問や不明点がある方は「無料体験授業をご希望の方」からお気軽にお問い合わせください。

究進塾 編集部

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